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世界から注目される、日本のローカルコミュニティーの可能性
beyond worker 005【EXTRA】
 2013,09,25

世界から注目される、日本のローカルコミュニティーの可能性

『beyondworking』とは、働き方に対する姿勢をこれまでの固定概念から少しだけずらしてみることかもしれない。
もちろんそれを実践するには試行錯誤を伴うだろうし、自分自身をまるごと使った実験と言えるかもしれない。実験はどんな答えが出るのか、やる前にはわからない。でも、だからこそそれはまるで遊びのように楽しめるはず。
人が通ったように思える道であっても、生い立ちや環境も含めて自分自身と同じ人はいないから、できた道はきっとどこにもなかった道になるんだろう。

働き方にはその人自身が表れる。
暮らしの延長に。そして価値観の延長に。
やがて働き方は生き方の表現となる。
そう、「どう働くか」は「どう生きるか」だ。

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<築約70年のブラウンズフィールドの母屋。>

都内からほど近い千葉県の外房、いすみ市に『ブラウンズフィールド』という、日本の伝統的な知恵と暮らし方をヒントにモノと自然を大切にしたライフスタイルを提案する場所がある。
国内はもとより、海外からもWWOOFer(※1)として若者を受け入れ、昔ながらの丁寧な生活や、生態系に配慮した米や野菜作りなどを伝えている。また、日本文化再考の視点から、社会人向けのクラスのフィールドワークに使われたり、文化庁から注目されたりもしている。(※2)
(※1)WWOOFer…受け入れホストの仕事や家事を手伝う代わりに、食事と寝る場所が与えられる仕組み(=WWOOF)に登録し、ホストに行き、手伝いする人たちのこと。
(※2)文化庁が注目…2013年6月、ブラウンズフィールドの主であるエバレット・ブラウンさんが文化発信部門において文化庁長官表彰を受けた。
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<薪を割り、釜戸で炊くごはんについて説明中。>

7月、ブラウンズフィールドにJICA(国際協力機構)の研修としてブータン、ハイチ、タンザニア、モロッコの4ヵ国からいすみライフスタイル研究所(※3)を通じて4名が訪れた。研修の目的は、「住民主体のコミュニティ開発」を考察すること。彼らは“先進国”の日本の田舎で伝統的な文化を繋ぐブラウンズフィールドで何を感じ、どんな生き方や働き方のヒントを持ち帰ったのだろうか。
(※3)いすみライフスタイル研究所…ブラウンズフィールドのある千葉県いすみ市で、豊かなまちづくりや自然環境の保全など、公益の増進に寄与することを目的として活動するNPO法人。
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<各国の前提条件は違っても、これからを考える思いは同じ。和気あいあいとしながらも意見交換は白熱した。>

-ブラウンズフィールドスタッフ-
「コミュニティとはそもそもなにか?というところから考えてみました。たとえば多様な個人が集まっただけではコミュニティとは言えないですよね。それはただの“集まり”です。きっと、ビジョンを共有する個人が集まることではじめてコミュニティになるんだと思います。そのうえでブラウンズフィールドのコミュニティを定義するとすれば、『元々都市に住んで働いていた住人で、農を中心とした伝統的な日本の暮らし方に価値を感じた人による移住者コミュニティ』と言えるかもしれません。ビジョンは『こうした価値感を広めることと、そうした人の生き方のモデルになること』でしょうか。みなさんはブラウンズフィールドにお越しいただいて、どんな印象を受けましたか?」

-ナムゲル(ブータン)
「ここでは日本の古い伝統とアイデンティティを復活させていますね。大戦後、アメリカ的なものが多く入ってくることで日本本来の文化が忘れられてきた面もあるかと思いますが、移住してきた若い人たちが伝統を復活させようとしているのがいいですね。私たちの国でも工業化が進んでいて、近代的なものを進んで取り入れようとする人もいる。それは決して悪いことではありませんが、バランスが大事です。工業化ばかりに目を向けてはダメでしょうね。」

-マックス(ハイチ)-
「自然と関わり、日本の伝統的な食事を摂るという、アイデンティティの再発見を行なう場になっていると思いました。ハイチでも自分のアイデンティティを確立することというのはとても大事なことです。今、ハイチの若者に“ハイチで一生暮らしたいか?”と聞くと、“海外に出たい”と答える人が多いのですが、かつてフランス領だったことの影響もあり、元々の農民の価値感や団結心というハイチ人としてのアイデンティティが曖昧になってしまっているのかもしれません。」

今のぼくらが暮らしている日本という国は、戦後、みんなが一丸となって先進国に追いつこうと工業化を進め、がむしゃらに働いた。国力の差があったことが敗戦の一因だったことも考えると、平和を願う気持ちが働くエネルギーになっていたのかもしれない。
工業化の過程で、確かにぼくらはテレビ、洗濯機、車、マンション、娯楽など、たくさんのものを得た。でも、ゆっくりと醸成されてきた伝統やアイデンティティといったカタチの無いものは、速すぎるスピードからはこぼれ落ちやすかったんだろう。
さて、改めて今はどうだろう?推し進めた工業化はバブルとともに一服して、幸せの価値観も以前とは随分変わった気もする。いわゆる好景気を知らずに育った世代が社会に影響力を与える年代にもなった。だからこそ新しい働き方の価値観が生まれたのかもしれない。日本だけではない。途上国の人も同じく、働き方に、そして生き方に真剣に立ち向かっている。

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<“種取り大根”を例にして土地のものを食べる食の豊かさについて話す。うしろには田んぼが広がる。>

-ブラウンズフィールドスタッフ-
「工業化を進めてきた日本は1990年のバブル崩壊以降、経済成長に非常に苦労しています。経済成長するためにはモノがたくさん売れる必要がありますが、工業化の時代には田舎の子どもが都市に出たり、都市部でも核家族化が進み、洗濯機やテレビが家に一台からひとり一台になってGDPは増えていきました。通貨が強くなって海外のものも気軽に買えるようになりました。しかし反面、家族や地域の繋がりが希薄になったり、大勢で田んぼの作業をするといった昔ながらの風景は失われていきました。暮らし方が変わったことで昔ながらの伝統は無くなっていったんです。そんな中でぼくらが先ほど話したビジョンを持つに至りました。
しかしながら、正解がこれだと確信をもっているわけではなく、模索の段階です。もしみなさんが今の日本にいたら、どんなビジョンを持って、どんな政策や活動をするでしょうか?」

-モッハレス(モロッコ-
「私があなたの立場であれば、大きなプロジェクトではなく小さなプロジェクトで、特に伝統的な生活様式などを守っていくことを大切にして、多くの人が参加できるような活動を頭を使っていろいろ計画してみたいです。地方を工業化していく動きなどもあるかもしれませんが、ここのような田舎を都市化するよりも、若い人が田舎を出ていかないプロジェクトが必要だと感じます。」

-マックス(ハイチ)-
「特に若い人たちが日本の精神を守っていくことが大事だと思います。日本の都市部に住む人たちの多くはテレビなどの情報から伝統的な文化を学んでいるかもしれませんが、家から出て、実際に自分の体で体験すること、そうした機会を持つことが大事ですね。」

-ブライアン(タンザニア)-
「『農を中心とした伝統的な価値感を広めることと、こうした価値感を持つ人の生き方のモデルとなる場所を作る』というあなたのビジョンに賛成です。あなたの持っているビジョンは私の国にとってもいいビジョンなので、国に帰ったら友人にシェアしてこれからのことを考えてみたいです。」

『生まれ育った国の伝統的な文化にまったく価値を感じない』という人は、きっと少数派だろう。でも、多くの人が知っているように日本でも伝統産業の多くは職人の高齢化と、消費者のライフスタイルの変化で手に取られなくなり、いまや風前の灯火だ。伝統文化を残していくためにも、日々の生活を営んでいくためにも、経済という血流は大切なこと。
工業化の時代を経て、新しい価値感が少しずつ生まれてきているといっても、経済性に現実味が伴わなければ絵に書いた餅になってしまう。“ただの夢物語”にしないためにはどうしたらいいのだろうか。

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<地の神様の前で、研修生とエバレット・ブラウンさん、ブラウンズフィールドスタッフ。>

-いすみライフスタイル研究所スタッフ-
「住人たちがなによりもお金で測れる豊かさを求めるというならば、都市だけでなく、ここのような田舎でも大きな企業を誘致するというような工業化をしていかなければいけないですよね。今は『工業化を進めたい人』と、『工業化の次の時代の暮らし方を模索する人』という異なるふたつの価値感の中で都市も地域も揺れているように思います。」

-マックス(ハイチ)-
「質問ですが、都市からここの地域に移住してくる若い人たちによる経済効果はどれくらいでしょうか?」

-いすみライフスタイル研究所スタッフ-
「東京のような都市からこの地域に移住してきた人は、お金を得ることにたいてい苦労していると思います。お金という判断軸だけで見るとデメリットばかりが目立ってしまいますが、人との繋がりや食事や自然の豊かさにフォーカスするとメリットも見えてきます。ただ、まだまだそうした価値感は広くは受け入れられていないので伝え方の方法に苦労していますが。」

-ブライアン(タンザニア)-
「コミュニケーションの努力が必要ですね」

-ブラウンズフィールドスタッフ-
「実は、都市にもそうした価値感を持っている人はものすごくたくさんいて、ブラウンズフィールドにも田んぼの田植えや収穫祭によく訪れます。実際にみなさんに来て頂いた時は、説明するというよりは、楽しんでもらう。ぼくらの生活の楽しさを伝えることで、いいなと思ってもらうことが一番なのかなと思っています。つまり、ここに来てもらえれば説明は不要です。」

-(一同笑)-
「また、ここに来る人から『いつかは移住したいと思いつつも、どうやってお金を稼いだらいいか』という悩みをよく聞きます。お金の部分さえクリアできたら都市から田舎に移住する人はたくさんいるんだと思います。」

-ナムゲル(ブータン)-
「ブラウンズフィールドはすでにそうした場所になっていて、都市からの移住者が増えていますよね。ブラウンズフィールドが今のままの活動を続けることそのものがメッセージでありコミュニケーションになると思います。」

-いすみライフスタイル研究所スタッフ-
「そのとおりです。ただ、お金第一でないことをやればやるほど、工業化の時代の価値感や、資本主義というものの大きさも感じますけどね。」

-マックス(ハイチ)-
「では地元の人と結婚してもらったらどうですか?そうしたらここに移り住んで、どこにもいかないでしょう?」
(一同笑)

-いすみライフスタイル研究所スタッフ-
「でも、結婚は日本ではすごくお金がかかることなんです。笑
彼(=ブラウンズフィールドスタッフ)は結婚していますよ。」

-ブラウンズフィールドスタッフ-
「お金より大事なもの(=愛)がありますからね。」
(一同爆笑)
「田舎での豊かな暮らしもそうですよね。でも確かにお金の偉大さもこういう暮らしをしていると改めて気付きます。続けていくためにも最低限のお金はやっぱり必要です。」

-ナムゲル(ブータン)-
「上も見てもキリないし、持っているものに満足して日々の生活を営んでいくことが重要ですね。」

-ブラウンズフィールドスタッフ-
「伝統的な日本の農民の言葉にも“足るを知る”というすごくいい言葉があります。昔の人はいつもたくさんのことを教えてくれますね。」

過去、がむしゃらに工業化を目指し、そこで得られる幸せと同時に限界も知った日本。
現在、工業化を志向しながらも、工業化の先に何があるのかを学ぼうとする国。

共通するのは、自分の住む場所をより良くしていく意思があること。個人が国単位の方向性を位置づけるのは容易なことではないけれど、場所を作っていく最小単位は人だから、“小さなコミュニティや地域の集合が国”ということも出来る。だから小さな単位で生き方を考えることは未来を作っていくことにも繋がっていくんだろう。

一人ひとりが今いる環境で、どう生きて、その生き方をどんな仕事として表現するのか。

指示待ちに徹するのではなく、自分の頭で考え、自分の働き方を創造していこうとすること。経済性と、すぐにこぼれ落ちてしまう大切なものとのバランスを取りながら。今、この時代は、国づくりや地域づくりの面からも、これまでの価値感を少しだけ転換するbeyondなライフスタイルとbeyondなworkの実践者が求められているのかもしれない。