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目の前の仕事に全力を尽くせ <strong>PART 3</strong>
beyond worker 006
 2013,11,27

目の前の仕事に全力を尽くせ PART 3

———人生の選択をする時、普通は立ち止まって考えてしまうものだと思うんです。ある人はお金だったり、社会的な地位だったり。でも、そういうものではなく自分の嗅覚とセンスに賭ける。飯田さんの中に強い軸があって、いまがあるんだなと思います。

とはいえ、エロ本時代の時は本当に修行の場でしたよ。先輩編集者から怒鳴られて、大御所カメラマンから怒鳴られて、会社に帰ったら何週間も泊まりがけで作業をして。もう本当に辛いことの方が多かったけど、そういう修行があったからこそいまがある。僕の場合は本当に遠回りしまくってるし(笑)。普通広告業界だったら、みんないい大学を出て、入社試験を受けて新卒で一から会社で働くもの。あまり僕のような人間はいません。遠回りしたがゆえの、自分ならではのものの見方や考え方、ネットワークができたというのは、いま思えば良かったなと思いますね。

逆に、いまの人たちはもっと回り道をすべきだと思いますよ。いまは何でも情報が簡単に手に入るしバーチャルな世界でものができあがっちゃう。でもそれだけじゃなくて、人と人がいて、何かものをつくる時って手も動かせば汗も涙も流しながらつくらなければならない。そういう肥やしがある人の方が踏ん張りどころで強い気がします。僕もエロ本時代がいい経験になったのかなと思います。それがストリートの世界に入っていくときも役に立ちましたし。

ストリートにはストリートなりのルールがあって、自転車なら自転車、スケーターならスケーター、グラフィティならグラフィティ、本当にアンダーグラウンドな世界のルールがある。そういうところに入っていくときは自分も同じ目線で一対一で話し合って、お互いを理解できる関係を築かなければならない。特に広告の仕事は彼らに誤解を生みやすいし、すごくデリケートで地雷だらけだから。そういう意味で、エロ本で地べたを這いずり回って、ストリートの嗅覚を養ったからこそできる仕事なのかもしれません。それがナイキのような広告をやる上で必要な経験になっていた気がします。

特に僕が所属していたW+K(ワイデンアンドケネディ)は広告の世界でインディペンデントな存在だし、一緒に仕事をクリエイトするときも外部のリソースとしてメジャーなアーティストではなく、全く無名のアーティストたちと見たこともないものをつくるということが多かった。日本の多くの広告クリエイティブとまったく哲学が違います。そこに自分のネットワークとキュレーション力が合致したからアートバイヤーという仕事ができたんだと思います。

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「W+K Tokyoアートバイヤー時代。パートナーの渋谷浩美と共に。カオスなデスク周り」

———編集者、キュレーターの仕事のあと、どのような流れで広告の世界で働くようになったのですか?

W+Kでアートバイヤーの部署が立ち上がる時に、当時グローバルのエグゼクティブ クリエイティブ ディレクターをしていたジョン・ジェイに呼ばれたのがきっかけです。彼はよくBAPE® GALLERYに遊びにきてくれて、僕の仕事を見てくれていたんです。ジョン・ジェイに誘われた時、当時の仕事に限界を感じていました。紙のメディアには紙ならではの良さもある反面、限界もある。どれだけ僕が大好きで多くの人に伝えたい世界や人がいるとしても、10何ページの特集の中でしか表現できない。もう少しその先を伝えられないかとギャラリーという空間でキュレーターとして仕事をして、やりがいも感じていましたが、そこにもギャラリーという箱の限界がある。どんなに凄いアーティストでもその空間だけで世界が完結してしまうのがもったいない。もっとおもしろい人たちを世に出すための方法がないかと考えていた時に広告というものが浮かんできたんです。

ストリートで活躍している無名のアーティストでも、広告の力を借りれば彼らが世に出るチャンスをつくれるんじゃないか? これだけ凄い人たちが自分のまわりにいるのにもったいない、おかしいという気持ちです。その一方で、世間ではどこのクライアントのコマーシャルに出たとか、どこのブランドのファッションのモデルやったとか、そんなつまらないところでしか価値を見出せない人たちも多かった。本来のカッコいい人たちというのはストリートにいるということは肌感覚で分かっていたし、その世界をもっと社会に打ち出したかったんです。

ストリートの人たちもみんながナイキを好きなわけじゃない。例えば、世田谷公園に集まっているスケーターたちも「俺らナイキよりもバンズっす」という感じの人が多かった。でも、彼らでもどこかにナイキがぶつかるポイントがあるんじゃないかとじっくり話をしていくと「エアフォースワンでスケートやったらおもしろいかもしれない」という話が出てきたり。彼らのプレイを撮る写真家もスケーターたちの間では崇拝されているスケーター兼アーティストのダイコンくんにお願いして。そういう見えない仕事があるからフェイクではないリアルなシーンを撮る事ができる。この現場に通常の広告仕事のようにファッションフォトのカメラマンや商業カメラマンが来ても絶対感覚が分かりません。スケーターの目線で撮れる人じゃないと。

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———ストリートのコミュニティの中にいながら、クライアントのことも考える。どちらに寄っても広告として成り立たない、その絶妙な距離感を保ち続けるのは大変な事だと思います。

元から好きだから、その大変さは全くなくて。その好きさを持ちながら、それを仕事にする上でのチューニング感が大事なのかもしれません。好きだからといって何でも広告にできるわけじゃなくて、クライアントの意向がある中で、スケーターたちにも要求をしなければならない。現場を陰で支えるチューニング係、それが僕の仕事だと思っています。リアルなシーンを捉えつつ、クライアントが伝えたいメッセージを載せた上で、最高のクリエイティブをつくらなければならない。それを達成するために自分は何でもやる。スケートの撮影中も警察が来て僕が捕まったりもしたけど、いいものができるなら苦じゃない。僕が踏み台になればいい。

そうやってできたポスターが世に出た後に、僕がすごく好きなグラフィティのライターから「あのナイキ、飯田君がやったの? あれはホントにボムだよね、グラフィティのボムと一緒じゃん!」という声をもらって。それは僕にとって最高の褒め言葉でした。広告を貼り出す場所も、ストリートの目線に立って、彼らならこういうスペースにこんなクリエイティブがあったら驚くだろうな、という場所を考え抜いた上で出していました。そのメッセージがちゃんと彼らに届いていたんです。その時、僕の仕事がストリートにも本当に理解されたんだなと感じました。そこは僕にとって一番大切なことですし、一番おもしろさを感じるところです。
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「NIKE LONDONが企画したエキジビション『NIKE78』参加作品。NIKEシューズの特性をコンセプトに世界中から78組のアーティストが作品を提供。W+Kの仲間と共に『NIKE ABUKU』と題しDIYで水槽を制作した。」

>>『目の前の仕事に全力を尽くせ PART 4』へ続く