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目の前の仕事に全力を尽くせ <strong>PART 5</strong>
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 2013,12,03

目の前の仕事に全力を尽くせ PART 5

———石巻の復興フェーズが変わり、去年の11月から再び広告業界に戻られたわけですが、同じ広告会社でも全く規模もカラーも違う会社にお勤めだと思います。いまの会社でなさっている仕事はどのような内容なのでしょうか?

いままでストリートに近いところでアナログ寄りの仕事が多かったですが、時代の流れとしてデジタルからは逃げられない。かといって、アナログ的なものが今後全く使えなくなると思わないし、デジタル的なアイデアやノウハウが加われば逆にクリエイティブの幅も広がって、より強いメッセージを多くの人に伝えられます。いま所属している会社はデジタル分野が強いので、自分に欠けていた分野を補完すべく、日々勉強といった感じです。社内の肩書きとしてはプロデューサー兼アートバイヤーとして働いています。

W+Kはナイキのような古くからのクライアントと強い信頼関係を築き上げ、クリエイティブをどこまで極限まで高めるかに重点があり、そこがおもしろかった。一方、いまの会社では毎回ほぼ新規のクライアントで、スケジュールもタイト。以前とは仕事のスタイルが両極端ですが、それが逆におもしろいですね。

———会社の仕事と、石巻2.0のようなプライベートの活動との間で、どのようにバランスをとっているのでしょうか?

石巻2.0の活動以外でも、旧友でフィギュア本の時代から共に切磋琢磨したRockin’Jelly Beanの画集を編集中だったり『FLJ』というフリーペーパーでは連載もしています。最近ではライゾマティクスの齋藤さんが企画した「建築家にならなかった建築家たち」という展覧会に参加したり。会社の仕事がメインなので、プライベートな時間では純粋に好きで興味のあることだけでクリエイティブを生み出すっていうか、いつもの仲間や新しい才能達と馬鹿話しつつもオモシロイものを作ることで、精神的にバランスをとっているのかもしれませんね。

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『建築家にならなかった建築家たち』展の会場風景

———飯田さんを一つの肩書きで語ることはとてもできないですね。でも、そんな働き方が人間にとって一番自然なのかもしれないし、飯田さんのような職業や肩書きの枠を超えた働き方が、組織や会社だけに縛られない新しい働き方でもあり生き方のような気がします。

僕自身、あまり肩書きやつくるもののかたちを決めていないんです。自分がすごく興味が湧いたり共感できるものを持っている人と、何か一緒にできることを考える。そのプロセスが楽しいし、それが一番幸せです。会社の他にも、みどり荘というワーキングスペースにも入っていて、おもしろい人とおもしろいことができるチャンスを常にうかがっています。

———自分の「好きなこと」がはっきりしている人は意外と少ない気もしますね。まず自分の「好きなこと」が何なのか、それを探している人のほうが多いのではないでしょうか。

そうですね、それは時間がかかるんじゃないかな。もちろん若い時から自分の好きなことを発見して、その道を極めていける人は幸せですが、いまの時代はそれも大変な気がします。自分のやりたいことだけで仕事はできないし、その中で少しでも好きなことができればいい。3.11以降、僕も幸せの尺度が変わりました。会社の仕事があるだけで既に幸せなわけで、自分なんかよりもっと大変な人が東北に限らず世の中にたくさんいる。そう考えると、物足りなさとか不平不満をもつのは間違っているし、現状がすでに幸せで贅沢なことだと思いますよ。

会社以外でもいろんな人からの相談や頼み事が多くて自分一人の時間がなかなか取れませんが、それはそれで幸せなことなんだと思います。仲間から認められているということだし、それは大切にしないといけない。所詮、自分の仕事は人ありきだから。そのネットワークの中で自分がちゃんと信頼される何かを提供できているか、自問自答しながらそれを続けていくだけですね。

いまの自分がこの場所にいるのも、目の前の選択を積み重ねてきただけで明確なゴールがあったわけじゃない。経歴や会社の名前で大げさに見られることもありますが、自分ではそれほど会社や組織を意識してないし「たまたまここにいる」という感覚が強いですね。逆に、一つの道を突き進んでいる人に対して憧れがあります。でも編集や広告では一つの道を極めている人たちと一緒に仕事ができる、そこが最大の魅力だと思います。最新のデジタル技術を駆使するクリエイターと仕事をすることもあるし、石巻の高校生と共同作業することもありますが、全て僕の中ではフラットで、楽しさは一緒なんですよ。

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「石巻2.0の仲間達と共に。2012年のStand Up Weekにて」

———飯田さんのこれからのビジョンのようなものはありますか?

震災後に東北へ行くようになってから、あらためて自分は東北人だなあと思います。自分が東京の人間だと思った事は一回もないし、東北の人間だという意識が常にどこかにある。もはや東京で過ごした時間のほうが長いけど、どこか違和感があることも確かで。地元があるがゆえの心のゆとりもあるし、いつか地元に恩返しをしたいなという気持ちもあります。

僕の地元は青森県の八戸ですが、震災前の石巻と同様にシャッター商店街ですし、日本中でそういう場所が増えてきている。石巻2.0を通じて、自分の仕事がまちづくりやローカルコミュニティの活性化にも活かせることが分かって、地元に対する見方も変わりました。いままでは八戸に帰ってシャッター商店街を見ても「さみしいなあ」と思うだけでしたが、もしかしたら街を元気にするために自分のやれることが将来的にあるかもしれません。

僕はずいぶん回り道をしてきましたが、いま思えば楽な道よりわざわざ困難な道を選んできたのかもしれません。正解は人それぞれですが、若いときの苦労や泥臭い仕事がいま逆に必要とされている気がします。大学を出て大きな会社に入ることだけがカッコいいわけじゃない。クールなライフスタイルや技術的な最先端だけを追い求めるのではなくて、地に足を着けて地球のことや環境のことを考えることも、未来につながる最先端だと思います。

ネットワーク化が進んで、いろんな知識や経験を持っている人たちが前よりも簡単につながって力を発揮できる社会になってきました。遠回りしてきた知識や経験が活かされるおもしろい時代になってきています。安易に近道しようとせずに、目の前の仕事、目の前の人のために全力を尽くすことが、いまのような時代だからこそきっと自分の未来を切り拓くことになるんじゃないかな。

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<完>